東アジア近世都市における社会的結合
―諸身分・諸階層の存在形態―
大阪市立大学文学研究科叢書第3巻
井上徹・塚田孝・
大阪市立大学文学研究科叢書編集委員会編


東アジアの近世史から都市と社会を展望する。


大阪市立大学文学研究科叢書
第1巻 橋爪紳也責任編集・アジア都市文化学の可能性

第2巻 都市の異文化交流

第4巻 近代大阪と都市文化

第5巻 都市文化理論の構築に向けて

第6巻 文化遺産と都市文化政策

第7巻 都市の歴史的形成と文化創造力

第8巻 塚田 孝・佐賀 朝・八木 滋編 近世身分社会の比較史

第9巻 井上 徹・仁木 宏・松浦恆雄編 東アジアの都市構造と集団性

第10巻 大場茂明・大黒俊二・草生久嗣編 文化接触のコンテクストとコンフリクト

第11巻 佐金 武・佐伯大輔・高梨友宏編 ユーモア解体新書

第12巻 塚田 孝・佐賀 朝・渡辺健哉・上野雅由樹編 周縁的社会集団と近代


 編者の関連書籍
 塚田 孝著 都市社会史の視点と構想

 塚田 孝編・近世大坂の法と社会

 塚田 孝編・身分的周縁の比較史



ISBN4-7924-0580-7 (2005.3) A5 判 上製本 338頁 本体6500円
■本書の構成
第一部 諸身分・諸階層の社会的結合という視角
  明代の社会集団と「賤」観念……………………岸本美緒(東京大学教授)
  近世前期、江戸町人地・内・地域の分節構造……………………吉田伸之(東京大学教授)
  近世後期大坂における都市下層民衆の生活世界……………………塚田 孝(大阪市立大学教授)
第二部 比較史から諸歴史社会に迫る
  明末広州の宗族……………………井上 徹(大阪市立大学教授)
   ―顔俊彦『盟水斎存牘』に見る実像―
  近世朝鮮の地方都市=邑治の景観と社会的結合……………………金 R榮(韓国国史編纂委員会)
  役の周縁……………………ギョーム・カレ(フランス国立社会科学研究院助教授)
   ―金沢銀座と諸方御土蔵の従業員について―
  清代北京城内の八旗鰥夫……………………定 宜庄(中国社会科学院歴史研究所)/上田貴子訳(日本学術振興会特別研究員)
  近世・近代移行期における大阪の都市下層社会……………………佐賀 朝(桃山学院大学助教授)
   ―長町の民衆世界とその構造―
  都市(民)のアイデンティティをめぐって……………大黒俊二(大阪市立大学教授)
  比較都市社会史の行方―報告・討論全体を通じて―……………岩井茂樹(京都大学教授)
  東アジア史研究と身分的周縁論……………森下 徹(山口大学助教授)



  刊行にあたって

 本書は、2004年3月20日・21日に開催された《国際シンポジウム「東アジア近世都市における社会的結合―諸身分・諸階層の存在形態―」》の内容を取りまとめて刊行するものである。

 大阪市立大学文学研究科では、去る2002年度から、文部科学省21世紀COEプログラムのひとつとして「都市文化創造のための人文科学的研究」を課題とする共同研究に取り組んできた。そこでは、研究科内に都市文化研究センターをおき、比較都市文化史、現代都市、都市における人間という三チーム体制で様々な事業を行なってきた。本シンポジウムは、比較都市文化史チームの事業として、次のような意図で企画された。

  「近年の中国近世(明清時代)史において、社会の流動性が注目され、それ故にこそ、全人格をかけてさまざまな縁にかけた結びつき(投企)が求められた。その時期こそ、宗族が社会に浸透していく時期でもあった。一方、日本近世史においては、身分的周縁の研究が進展し、〈集団〉・〈関係〉・〈場〉をキーワードに、「士農工商えた非人」の固定的な身分制のイメージが問い直されている。こうした社会の流動性への着目や身分的周縁の摘出は、ともに人々の社会結合・社会関係のあり方を問うことから出発している。本シンポジウムは、社会の流動性や周縁性が都市においてこそ顕著に見られることにかんがみて、東アジア近世都市を、諸身分・諸階層の社会的結合という分析視角から見直すことを目的に開催される。」

 こうして企画されたシンポジウムであるが、当日は、中国・韓国・フランスから招いた報告者を含め、日本の都市関係四本、韓国の都市関係一本、中国の都市関係三本の報告が行なわれ、活発な議論が交わされた。

 第一部は、「都市諸階層の社会的結合という視角・方法」に重点をおいているが、そこでの報告も第二部の「都市社会の具体的歴史像を踏まえて、比較史の視点から各歴史社会の特質に迫る」という探求の一環であることは言うまでもない。先述のように、このシンポジウムは、東アジアの近世都市における〈流動性〉をキーワードに、その社会的結合の特質を比較史的に考究することをねらいとしていたが、そこでは、中国、朝鮮、日本の共通性と差異性が具体的に議論された。

 中国においては、個人化した社会であるが故の投企的結合が縦横に形成される。日本は、小経営の家を単位とする村や町などの結合を基盤とする伝統社会が息づいている。韓国は、国家と在地社会を結びつける結節点に地方都市があった。こうした特質が浮き彫りになるとともに、都市社会の周縁に日用・雑業者・芸能者、勧進者、商人、任侠的存在など共通するファクターが浮かび上がってきた。そして今後、それらの具体的存在形態をていねいに解明していくことが、比較史を稔りあるものにするだろうという共通認識が確認された。

 シンポジウムには内外から一二〇人を越える人たちに参加していただいたが、このような成果が参加者の範囲に限定されることは残念である。シンポジウムの内容を出版することで、より広い人々にもそれを共有してもらえれば大きな意義がある考え、文学研究科叢書第三巻として刊行することとした。今後の研究の発展の一助となれば幸いである。
井上 徹・塚田 孝
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。