検証 イールズ事件
占領下の学問の自由と大学自治
大藤 修著


1950年に起きた東北大学イールズ事件を、学問の自由と大学の自治をめぐる歴史のなかに位置づけて考察し、当時の大学人と学生たちが、大学と日本社会のあり方をどのように考え対処したのかを探る。


■本書の構成

  口絵/凡例

プロローグ イールズ事件とは 

第一章 迫り来る逆コースの足音 −戦後初めて保障された学問の自由とその危機−
  一 戦前・戦後における学問の自由と大学自治
  二 対日占領政策転換前後のイールズの任務
  三 新潟大学でのイールズ講演とその波紋

第二章 イールズ旋風の来襲と反撃 −イールズの東北大学訪問と講演中止事件−
  一 イールズ一行東北大学訪問の経緯と学内の動向
  二 イールズ講演中止と学生大会・懇談会の開催
  三 イールズ講演中止事件後の学内外の動向

第三章 イールズ旋風の跡 −学内処分と北海道大学との対比−
  一 臨時調査委員会の設置・報告と学内処分
  二 北海道大学の反イールズ闘争と「事件」
  三 レッド・パージ反対運動の高揚と大学教員パージの頓挫

エピローグ イールズ事件への問い、イールズ事件からの問い

  参考文献一覧/あとがき



  著者の関連書籍
  平川 新・千葉正樹編 都市と村(講座 東北の歴史 第二巻)




ISBN978-4-7924-0695-0 C0021  (2010.1) 四六判 上製本 264頁 本体2,600円
「大学自治」で闘った人々の想いに応える歴史学
北海道大学名誉教授 井上勝生
 東北大学イールズ事件五〇周年シンポジウムでの、七〇歳前後に達した当時の学生の言葉は、かぎりなく重い。
 「私は、あの「事件」がそれぞれの胸臆に消し難い心熱のようなものを点していった……その持続、広さ、深さを改めて肌で感じた」。「大学自身の姿勢を不問に付したまま「事件」の原因を、一部学生の逸脱と断じて処分した。自身に迫られた問いを不問に葬ることと、「事件」を一部学生の逸脱に求め処分したこととは、表裏一体の体質であろう。これは、まこと現代的でもある」と。大学自治をテーマに闘った当事者の無念が、今もあふれている。
 大学のレッドパージを担ったイールズは、「事件」の翌年、意気消沈して帰国した。だが、東北大学当局の対応は、ことなかれ主義で、暗く重いよどみを、今日にも残した。
 本書は、教授会記録など一次史料を駆使して、「あの事件」を明るみにさらしていく。「あの程度のことに終わり、その後片付けも比較的手際よく」いったと回想する当時の学長には、事件の一原因の所在すらも感じさせるが、アーキビストでもあった著者は、記録をあくまでも追及して事件を再構成する。一方の学生自治会の組織対立までも描かれる。とりわけ圧巻は、学生処分決定の透徹した分析である。このレベルまで、大学史が叙述された例を、私は知らない。大学の自治をめぐる闘いは、見事に描き出された。
 イールズ事件の一方を担った北海道大学の、「イールズ闘争は私たちの学校でした」という回顧を読むと、当時、東北大と北大とでは何かが違ったと思う。本書は、その違いにも答えを出す。その作業が、東北大教員の著者によって行われたことに深甚の敬意を感じざるをえない。
 あとがきで著者は、日本最初の大学アーカイブズ、東北大学史料館の収集資料によって本書ができあがったと記しつつ、日本の大学に記録保存の責任意識が際だって希薄なのは、目先だけよければよいという、未来への無責任に起因しているという。この指摘は、本書にふさわしいものである。本書によって、東北大学の「事件」は、イールズ事件として、厳密に、そして歴史学の深さをもって描かれたと感銘をうけた。