■美作小林家 伊東万喜書簡集 江戸から実家への手紙
清文堂史料叢書第123刊
妻鹿淳子編




話題をよんだ『武家に嫁いだ女性の手紙』の伊東万喜の書状と関係者の書状を翻刻し、解説と注を付して刊行する。


■本書の構成
  小林家について
  第一部 伊東万喜の書状
  第二部 万喜をめぐる人々の書状




  ◎妻鹿淳子(めが あつこ)……1943年、岡山県生まれ 岡山大学大学院文化科学研究科修了 元清心女子高等学校教諭・前岡山地方史研究会会長




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ISBN978-4-7924-0983-8 C3021 (2013.3) A5判 上製本 270頁 本体7,500円
美作小林家文書 伊東万喜書簡集 江戸から実家への手紙
妻鹿淳子  
 小林家は、蘭方医杉田玄白の弟子小林令助が出た家である。私は、四〇年前、所在調査に訪れていた家ではあったが、当時重要な史料とされた洋学関係は、津山洋学資料館に委託保存され、もはや小林家には当時の史料は残されていないと、周囲の研究者は見ていた。私も同様で、すっかり小林家を訪問したことさえ忘れていた。巡り合わせか、小林家と縁戚にあった友人に誘われ、再訪する機会を得、家政関係の史料が存在することを発見することができた。
 本書掲載の伊東万喜という女性は、美作の医師小林令助の娘として生まれ育った。万喜は、幕臣になった伯父耕左衛門の養女となり、杉浦為作を婿養子に迎えるが、二人の子どもを残して夫は死去する。その後、旗本伊東要人へ再嫁し二人の子をもうけた。万喜の書状は、再婚後から万喜死去の数年前までの二六年間に断続的に残されている。書状は私的な文書であり、どれほどの信憑性を持つことができるか、しかも一人の女性のものだけでは、なにも語れないかも知れないという思いもあったが、万喜の書状には、驚くほどの豊富な情報が書き綴られていた。幸いに、杉浦譲関係文書に出会い、その他の史料との比較検討もでき、その信憑性についての疑問は克服できたと思っている。本書状から、万喜の波瀾に満ちた半生をおぼろげながら綴ることができ、私なりに纏めたのが『武家に嫁いだ女性の手紙』(吉川弘文館、二〇一一年)である。
 本史料集の出版の目的は、拙著の裏付け史料の意味合いもあるが、それは本意ではない。書状にはじつに多種多方面の情報が記されており、女性史だけではなく違った研究分野の方の参考になる事柄が含まれていること、また、手紙の書き手の状況を十分に配慮し、注意深く取り扱うことが条件ではあるが、手紙という個人の「語り」は、公文書では出てこない人々の本音の部分を語ってくれ、生活実態を具体的に明らかにしてくれる史料であることから、より多くの方の目に触れ、従来とは異なった視点が生まれることを願って出版することにした。
 多くの方に役立てていただけることを願ってやまない。万喜になりかわって。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。