江戸時代の政治と地域社会 全2巻
平川 新 編


  「セオリーから出発するのではなく、史料に書かれている事柄から出発すること」。
編者の東北大学在職中の講筵に連なる、気鋭の研究者が論考を寄せる。第一巻では、仙台藩主の学問や藩政の展開、伊達騒動、幕末の政治動向等を取り上げて同藩を中心とした興味深い各問題を詳述する。第二巻では、無宿や博徒の取締り、神社争論、地域の紛争処理、動物観、旅と景観河川流域の環境と資源、安政期のコレラ流行などに加え、平川氏の論考も加わり、多彩な問題意識に基づいた各論文を収録する。


第一巻 藩政と幕末政局


第一部 大名と藩政

大名の「明君」志向と藩政 
―伊達綱村と第二の伊達騒動― ………… 蝦名裕一(東北大学)
  はじめに
  一 延宝期における綱村の文武受容と仙台藩政
  二 「明君」綱村と「忠臣」伊達安芸の相剋 ―第二の伊達騒動へ―
  おわりに


宗勝と宗重
 ―伊達騒動における後見人・重臣間の文書様式と政治状況― ………… 籠橋俊光(東北大学)
  はじめに
  一 大名と一門 ―宗勝と宗重の藩内における基本的位置―
  二 宗勝と宗重 ―文書に見る両者の位置―
  おわりに


一八世紀後半における仙台藩の学問と「教諭」政策 ………… 小関悠一郎
(千葉大学)
  はじめに
  一 一八世紀半ばの仙台藩における学問 ―富田王屋を中心に―
  二 経世論の受容と民政 ―細井平洲の教化論を中心に―
  おわりに


天保飢饉における村の負担
 ―仙台藩領村落を事例に― ………… 高橋陽一(東北大学)
  はじめに
  一 天保飢饉時の年貢負担
  二 天保飢饉時の諸役・償負担
  おわりに


天保七年の伊達騒動
 ―飢饉下の仙台藩主・伊達斉邦と重臣・「世論」― ………… 佐藤大介(東北大学)
  はじめに
  一 伊達家一門衆の危機認識 ―背景・その一―
  二 斉邦側近の危機意識 ―背景・その二―
  三 対決 ―一門三人衆と斉邦の議論―
  四 収束へ―伊達長門宗充と石川大和の議論―
  おわりに


第二部 東北諸藩と幕末政局

王政復古前後における秋田藩と気吹舎 
―慶応四年の「内勅」をめぐる政治背景― ………… 天野真志(東北大学)
  はじめに
  一 「復古」の政治経過
  二 「東北雄鎮」としての秋田藩
  おわりに


幕末仙台藩の自己認識と政治動向 
―奥羽地域に対する意識を中心に― ………… 栗原伸一郎(宮城県公文書館)
  はじめに
  一 動かない大藩と奥羽
  二 動き出す大藩と奥羽
  おわりに


奥羽越列藩同盟における公議府と軍事 ………… 太田秀春
(鹿児島国際大学)
  はじめに
  一 列藩同盟の成立と「盟約書」の内容
  二 同盟軍の軍事指揮権
  三 列藩同盟と旧幕府軍
  四 同盟軍と旧幕府軍の「新展開」
  おわりに


ISBN978-4-7924-1031-5 C3321 (2015.3) A5判 上製本 276頁 本体7,500円


第二巻 地域社会と文化


第一部 地域秩序と生活

南奥羽の往来宿について 
―無宿者の生活領域と地域社会― ………… 小林文雄(米沢女子短期大学)
  はじめに
  一 幕末の無宿者をめぐる事件 ―谷地の契約講帳から―
  二 鶴岡藩の往来宿=無宿者宿について
  三 奥羽地域の往来宿
  おわりに


甲州博徒論の構想 ………… 橋 修
(東京女子大学)
  一 「博徒王国」甲斐の背景
  二 甲州における博徒取締令
  三 甲州博徒と甲府城下町周辺経済
  おわりに


神社争論をめぐる朝廷と幕府の裁判 ………… 中川 学
(東北大学)
  はじめに
  一 上賀茂争論の概要
  二 上賀茂争論の経過(T) ―朝廷の裁判と幕府との交渉―
  三 上賀茂争論の経過(U) ―幕府の対応―
  四 上賀茂争論の歴史的背景
  おわりに


入組支配地域の犯罪・紛争処理と地域社会 
―近世後期信濃国佐久郡を事例に― ………… 菅原美咲(仙台市博物館)
  はじめに
  一 喧嘩傷害事件の内済処理過程
  二 博奕事件の処理過程
  三 博奕処罰と領内百姓更生・保護政策
  おわりに


第二部 社会認識と文化・情報

松森胤保の動物飼育と動物観 
―『両羽博物図譜』とハツカネズミの飼育記録を中心に― ………… 安田容子(東北大学)
  はじめに
  一 松森胤保
  二 『両羽博物図譜』
  三 『両羽獣類図譜』の進化論と品種改良論
  四 松森胤保のネズミに対する動物観
  おわりに


天保期、松坂商人による浜街道の旅 
―小津久足『陸奥日記』をめぐって― ………… 青柳周一(滋賀大学)
  はじめに ―小津久足と『陸奥日記』―
  一 陸奥への旅立ち ―「雅地」としての浜街道へ―
  二 久足が見た天保期の浜街道と仙台城下
  三 「風流」の追求と自己認識 ―近世商人としての久足―
  むすびにかえて


一九世紀仙台藩における流域とサケ資源保全政策 
―サケからカワ・ヤマへ― ………… 高橋美貴(東京農工大学)
  はじめに
  一 仙台藩におけるサケ資源保全政策の採用
  二 北上川下流域の瀬場と「川様」
  三 「川様無然」と山林荒廃
  おわりに


安政期コレラ流行をめぐる病観と医療観 
―仙台藩士・桜田良佐の記録を事例として― ………… 竹原万雄(東北芸術工科大学)
  はじめに
  一 桜田良佐とその記録
  二 コレラの流行状況
  三 コレラ予防・治療法の内容
  四 コレラ予防・治療法の実用
  おわりに


【別篇】
慶長遣欧使節と世界のなかの日本 ………… 平川 新
  はじめに
  一 イベリア諸国の世界進出
  二 国際貿易と家康・政宗
  三 スペイン国王との貿易交渉
  四 ローマの支倉と交渉の結果
  五 ヨーロッパ列強をコントロールできた日本の国力
  六 慶長津波と遣欧使節 ―おわりに―





  ◎平川 新(ひらかわ あらた)……1950年生まれ 福岡県出身 宮城学院女子大学学長・東北大学名誉教授





 編者の関連書籍
 平川 新著 近世日本の交通と地域経済

 平川 新編 通説を見直す―16〜19世紀の日本―

 入間田宣夫監修 講座 東北の歴史 全六巻

 渡辺信夫歴史論集第2巻・平川 新編 日本海運史の研究


 本書の関連書籍
 籠橋俊光著 近世藩領の地域社会と行政

 太田秀春著 朝鮮の役と日朝城郭史の研究

 太田秀春著 近代の古蹟空間と日朝関係

 斎藤善之・高橋美貴編 近世南三陸の海村社会と海商

 高橋美貴著 近世漁業社会史の研究



ISBN978-4-7924-1032-2 C3321 (2015.3) A5判 上製本 276頁 本体7,500円

  平川史学とその山脈
(やまなみ)

  弘前大学名誉教授・弘前市立博物館長 長谷川成一  

 このたび、東北大学名誉教授・宮城学院女子大学長の平川新氏の編集にかかる論集『江戸時代の政治と地域社会』全二巻が上梓の運びとなった。第一巻の「藩政と幕末政局」は、第一部「大名と藩政」・第二部「東北諸藩と幕末政局」、第二巻の「地域社会と文化」は第一部「地域秩序と生活」・第二部「社会認識と文化・情報」で、各巻がともに二部構成となっていて、第二巻の掉尾を飾るのが別篇として位置づけられた平川氏の論考「慶長遣欧使節と世界のなかの日本」である。執筆者は、平川氏を含め全部で一七名。平川氏の東北大学在職中の講筵に連なるか、研究室に所属した方々で、いずれも中堅・若手の気鋭の研究者であって、渾身の力作を恩師に献呈している。
 各論文を紹介する紙幅はないが、平川氏の幅広い学識に裏打ちされた、「平川史学」ともいえる学問体系のなかに胚胎していた様々な研究のシーズを、各執筆者は本論集において、みごとに開花させており、読み応えのある論集に仕上がっている。
 第一巻では、仙台藩主の学問や藩政の展開、伊達騒動、幕末の政治動向等を取り上げて同藩を中心とした興味深い各問題を詳述する。第二巻では、無宿や博徒の取締り、神社争論、地域の紛争処理、動物観、旅と景観、河川流域の環境と資源、安政期のコレラ流行などに加え、前記平川氏の論考も加わり、多彩な問題意識に基づいた各論文を収録する。このように多岐にわたる内容の論文集は、ややもすれば、各論文の関連性が希薄で、読了後、統一的なイメージを持ちにくい傾向があるが、高弟の佐藤大介・高橋美貴・中川学の三氏が取りまとめ人として、可能な限り各論文の関連性を高め、査読まで行ったという。本論集は、まさに品質保証がなされた高い学術性を保持していると言っても過言ではなかろう。
 そもそも本論集の基点は、二〇〇九年から前述の三氏が中心となって、平川氏を囲んで開始した研究報告会にあり、同報告会は「平川塾」と名付けられていたという。二〇一一年の東日本大震災によって、一時中断を余儀なくされたが、その間、平川氏本人をはじめ各執筆者が資料レスキュー活動にも従事したという。その経験に基づいた論文も散見するなど、本論集刊行に向けて各々が種々の分野で成長していった姿が見られるのも特徴と言えよう。
 論集に集った各執筆者は、平川氏も編者をつとめ、昨年、清文堂から全六巻の刊行が終了した『講座 東北の歴史』に論考を寄せている。本論集収載論文に関してより深い理解を得られると思われるので、併せてそちらも参照されたい。両書ともに、今後の東北史研究にとって必読の書となるであろう。
 平川氏とその門人たち、敢えていわせてもらえれば、平川塾に集った俊英たちによる平川史学の山脈(やまなみ)がここに屹立したのであり、本論集が基軸となって、これから山脈がよりいっそう高さを増し、拡大発展することを期待している。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。