鎌倉時代公武関係と六波羅探題
木村英一著


本書では、六波羅探題が有していた様々な機能の具体的内容およびその遂行の形態や歴史的変遷、さらに六波羅探題がこうした諸機能を果たすにあたっての公家政権・王権との関係、あるいは公家政権・関東(幕府)との相互関係を中心に検討し、六波羅探題の本質と歴史的位置について考察することによって、鎌倉時代の公武関係を視野に入れた総合的な政治史を描き出す。


■本書の構成

序 章 研究の現状と本書の課題
  
はじめに/一 鎌倉時代公武関係史研究の現状と課題/二 六波羅探題研究の現状と課題/三 本書の視角・課題と構成

第一章 六波羅探題の成立と公家政権
  
はじめに/一 承久の乱以前における京都の警固/二 成立期六波羅探題と京都の警固/三 六波羅探題「洛中警固」体制の形成/むすびにかえて

第二章 京都大番役の勤仕先について
  
はじめに/一 京都大番役の勤仕先/二 院御所を勤仕先とする大番役/三 院御所大番役の確立とその歴史的意義/おわりに

補論 王権・内裏と大番
  
はじめに/一 閑院内裏と内裏大番/二 大番役の変遷と閑院内裏

第三章 新日吉社小五月会と院・鎌倉幕府
  
はじめに/一 新日吉社小五月会の基本的性格――後白河・後鳥羽院政期の小五月会/二 新日吉社小五月会と院・鎌倉幕府――天福・宝治の小五月会/三 新日吉社小五月会の退転――鎌倉後期の小五月会/おわりに

第四章 鎌倉時代の寺社紛争と六波羅探題
  
一 問題の所在/二 六波羅探題の成立と寺社紛争/三 鎌倉後期の寺社紛争と六波羅探題/おわりに

第五章 鎌倉後期の悪党検断方式に関する覚書
  
はじめに/一 「関東御事書」をめぐって/二 悪党検断方式の成立/三 悪党検断方式の歴史的位置/おわりに

第六章 勅命施行にみる鎌倉後期の六波羅探題
  
一 問題の所在/二 勅命施行と地頭御家人・武家被官/三 悪党検断としての勅命施行とその実態/おわりに

付論 鎌倉後期多武峯小考 
――『勘仲記』裏文書にみえる一相論から――
  
はじめに/一 弘安九年の多武峯九品院相論/二 相論発生の経緯/三 鎌倉後期の多武峯と摂関家・興福寺/おわりに

終 章




◎木村英一(きむら えいいち)……1973年長崎市生まれ 大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位修得退学 現在、関西大学・滋賀大学等非常勤講師 大阪大学博士(文学)



 
◎おしらせ◎
 『日本歴史』第823号(2016年12月号)に書評が掲載されました。 評者 西田友広氏

 『日本史研究』第652号(2016年12月号)に書評が掲載されました。 評者 熊谷隆之氏

 『史学雑誌』第126編第1号(2017年1月号)に書評が掲載されました。 評者 森 幸夫氏

 『法制史研究』第67号(2018年3月号)に書評が掲載されました。 評者 佐藤雄基氏

 『ヒストリア』第269号(2018年8月号)に書評が掲載されました。 評者 高橋典幸氏



ISBN978-4-7924-1037-7 C3021 (2016.1) A5判 上製本 350頁 本体8,500円

  鎌倉時代公武関係史に新たな地平を拓く


大阪大学大学院文学研究科教授 川合 康  

 本書『鎌倉時代公武関係と六波羅探題』は、六波羅探題の活動を中心に、鎌倉時代公武関係史の研究を精力的に進めてこられた木村英一氏の待望の論文集である。これまでも木村氏の研究成果は、鎌倉幕府論や中世武士論の動向に大きな影響を与えてきたが、本書の刊行によって、最近やや停滞気味の感がある鎌倉時代公武関係史に刺激がもたらされ、当該期の政治史や中世国家論の見直しが活発化することが期待される。

 本書における中心的な検討対象は六波羅探題である。六波羅探題については、一九八〇年代半ば以降、発給文書の網羅的収集に基づいた精緻な制度史研究が積み重ねられてきたが、こうした研究では、当該期の政治過程や公武権力の動向との関連性が充分に意識されてきたとはいえず、多岐にわたる成果が全体としてどのような歴史像を結ぶのかは必ずしも明確ではなかった。

 右のような研究状況を踏まえたうえで、本書は、「洛中警固」や京都大番役、公家の儀礼、寺社紛争、勅命施行システムなどにおける六波羅探題の役割・機能について、公家政権との関係を徹底して重視する視角からその変化を詳細に跡付け、公家政権・鎌倉幕府・六波羅探題という三者の総体的関係の歴史的展開と特質を明らかにしている。氏の研究は、中世国家史上における六波羅探題の位置を探ろうとするものであり、今後の中世国家論の展開に大いに寄与するものであると思われる。

 なお、本書のもう一つの特徴は、六波羅探題成立以前の「洛中警固」や、平安末期の閑院内裏大番役についても検討の対象に据え、院政期から鎌倉末期までを見通す視野をもっていることである。後鳥羽院政期の「洛中警固」が、白河・鳥羽院政期以来の院の指令による伝統的な警固体制をとっていたことや、内裏大番役が平氏による閑院内裏の警固役として成立し、それが鎌倉幕府に継承されたとする指摘などは、院政期の支配体制を前提に成立した鎌倉幕府が、何を継承し、何を克服しなければならなかったのかを考えさせてくれる。六波羅探題の諸活動も、そのような公武権力全体の推移のなかで、はじめてその意義が見えてくるのである。

 このように本書には、鎌倉時代公武関係史に関する堅実で信頼できる実証研究の成果とともに、中世政治史や国家論を考え直すための多くの示唆が含まれている。鎌倉時代に関心をもつ研究者や愛好家にとって、本書は必読の書となるに相違ない。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。