近世京都の金銀出入と社会慣習
宇佐美英機著


近世期の都市における金銀係争がどのように解決されてきたか、法制度と社会慣習から、都市京都の変容を読み解く



本書の構成

序 章 近世京都研究と本書の課題

第一部 町触社会の成立と訴訟制度

第一章 近世前期の町触と触留
第二章 「板倉二十一か条」の伝来状態
第三章 公事訴訟制度の整備過程

第二部 金銀出入の取捌仕法

第一章 京都の相対済まし令
第二章 京都町奉行所の内上銀済取捌仕法
第三章 公銀・名目銀滞り出入取捌仕法

第三部 近世京都の社会慣習

第一章 都市の変容と社会慣習
第二章 京都の「出世証文」
第三章 幕末期町の金銀融通慣行

終 章 近世京都の金銀出入取捌法と社会慣習の相克

補論 「科定類聚」と「武辺秘録」「武辺大秘録」

◎索引




  ◎宇佐美英機(うさみ・ひでき)……1951年福井県生まれ 同志社大学大学院文学研究科修士課程修了 現在、滋賀大学経済学部教授




 著者の関連書籍
 宇佐美英機編著 初代伊藤忠兵衛を追慕する



ISBN978-4-7924-0656-1 C3021 (2008.12) A5判 上製本 382頁 本体8700円
金銀係争史研究の新たな地平
立命館大学法学部教授 大平祐一  
 本書は、近世の都市において金銀貸借や商品売買などの経済行為によって発生する金銀係争がどのように解決されたのかについて、京都を対象として考察したものである。金銀係争史の研究は従来、江戸、大坂を主たる対象にして行われてきた。近年は若干の藩の研究も見られるようになったが、三都のなかでは京都に関する研究だけが欠落していた。その欠を埋めるべく著者は孤軍奮闘されてきた。その成果が本書である。本書により、京都における金銀係争処理の注目すべき特徴が浮き彫りになるとともに、三都の金銀係争処理の全体を見渡すことが可能となった。金銀係争を処理する「支配」の論理のみならず、町中と人々の動向、社会慣習・慣行を視野に入れ、「金銀紛争の日常化」現象を鮮明に解き明かされた点は、本書の大きな特徴の一つといえよう。近世社会における金銀係争とその解決に関する斬新な歴史像を提供した本書の意義は大きい。研究は新たな地平に到達したといってもよい。
 本書は、金銀係争の通史的研究であり、そこには京都の近世初期から幕末までの金銀紛争をめぐる動きが克明に記されている。本書には、債務の出世払いを認める「出世証文」の出現、関係方面に難儀をもたらすがゆえに居住する「町」から敬遠されがちな係争当事者を受け入れる特別な「難渋町」の存在、債務不履行者に対する最終的な強制執行(「身代限」)を回避するという京都の債務処理のあり方、「町」の住人たる債務者に対する「町」による債務保証など、興味深い叙述が随所に見られる。都市史、社会史、訴訟法(紛争処理)史、金融史、流通史などさまざまな分野の研究にとって本書のもつ意味は大きい。
 なお、補論は、京都町奉行所の裁判制度を考える上で基本的な史料である「科定類聚」「武辺秘録」「武辺大秘録」を紹介したものであり、近世都市京都における紛争処理の世界を一望することができる。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。