日本とアジアの農業集落
組織と機能
大鎌邦雄編


日本およびアジア地域における農業集落の性格について、山林資源管理、農村組織、農村計画等の施策や事業などへの対応を検討することを通して、歴史的に明らかにする。また、関連する事項を取り上げたコラムも収録


■本書の構成

  はじめに(大鎌邦雄)

第1章 林野資源管理と村落共同体 ―国有林野経営と地元利用― ……
東京農業大学教授 岩本純明

  コラム1 インドネシアの参加型国有林管理…トリ・レスタリ・ジャムフリ 岩本純明

第2章 近代日本における農会財政と農民組織化の特徴……
広島大学大学院教授 坂根嘉弘

  コラム2 農会と農会報…坂根嘉弘

第3章 経済更生計画書に見る国家と自治村落 ―精神更生と生活改善を中心に― ……
東北大学名誉教授 大鎌邦雄

  コラム3 山形県町村農会の農会是における「精神更生」と生活改善…大鎌邦雄

第4章 日本の村落とその市場対応機能組織 ―批判への答を中心として― ……
元東京農業大学教授 齋藤 仁

  コラム4 日本農村の頼母子講…齋藤 仁

第5章 北海道十勝畑作地帯の農業展開と集落構造 ―更別村旭集落小史―……
北海道大学大学院教授 坂下明彦

第6章 沖縄における村落の組織と機能……
琉球大学教授 仲地宗俊

  コラム5 国頭村奥共同店…仲地宗俊

第7章 植民地朝鮮における普通学校卒業生指導と家族制度……
東京大学大学院教授 松本武祝

  コラム6 鈴木栄太郎の朝鮮農村社会論…松本武祝

第8章 「排除」と「包摂」の関係にみるハンセン病者と農村社会……
東京農業大学准教授 杉原たまえ

  コラム7 コミュニティによる参加型開発と経済更生運動…有本 寛

  コラム8 ラオスの村と信用組合の普及・発展…藤田幸一




ISBN978-4-7924-0686-8 C3061 (2009.11) A5 判 上製本 304頁 本体6500円
地域社会の可能性を歴史とアジアから考える
京都大学大学院農学研究科教授 野田公夫
 激変する時代のなかで、今、地域というものの単位性・主体性に新たな関心が寄せられている。大状況の変化を緩和し咀嚼するインターフェイス機能が、グローバリゼーション下の地域社会に期待されているからであろう。
 地域には各々顕著な個性があり、したがってまた外部変化への対応形態には大きな差異があることも明瞭になっている。日本村落の世界的ユニークネスが注目されて久しいが、本書執筆者の一人である齋藤仁が提起した自治村落論は、日本村落の個性とその歴史的起源を明らかにするとともに、近代化過程への対応能力(動態過程)を論じる射程を有する点で画期的であった。他方近年では、これらの諸研究が欧米的手法の有効性に疑問が呈されてきた開発経済学からの関心を集めつつあるという、新たな状況もうまれている。
 以上のような時代と研究の状況を背景にして、十年におよぶ共同研究の成果として編まれた本書は、村落研究の新たな水準を切り開くものであり、次のような注目すべき特徴をもっている。
 第一は、これまで土地問題に集中してきた自治村落の機能分析を、多様な論点に拡大・深化させたことである。国有林における資源管理(岩本純明)・農会財政と農民組織化(坂根嘉弘)・経済更生運動下の精神更生と生活改善(大鎌邦雄)を扱った諸論考がそれであり、自治村落論の実証性は大きく引き上げられたといえよう。
 第二は、村落論の対象を農業問題以外の諸領域に拡大したことである。農村社会におけるハンセン氏病者(杉原たまえ)・コミュニティによる参加型開発の一つのあり方を経済更生運動のなかにみた論考(有本寛)がそれである。
 第三は、アジアという視点を重視し、植民地期朝鮮(松本武祝)およびラオス(藤田幸一)にも目を拡げたことである。北海道(坂下明彦)と沖縄(仲地宗俊)を扱った論考も、自治村落論(日本内地農村)の相対化を図ろうとする点では同じ眼差しの上にある。
 最後に、自治村落論の提唱者である齋藤仁自身が、これまでの諸論争をふまえて新たな自説を展開していることを特筆したい。一九二四年生まれの「大御所」が、種々の批判を真正面から受けとめ、それに対し誠実に立ち向かい新たな知見を提示している……この姿をみて、「アカデミズムも捨てたものではない」という思いを新たにした。
 歴史とアジアの深みから未来を考えるために、ぜひとも多くの方々に、本書を一読していただきたいと思う。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。