本書の構成序 章 さまよえる句点 芝原宏治
第Ⅰ部 論理と美意識
第一章 日本語の句読法 芝原宏治
第二章 中国語の句読法 林 嵐娟
第三章 韓国語の句読法 梁 淑珉
第四章 英語の句読法 芝原宏治
第Ⅱ部 視界の句読
第五章 時間表現と文明開化 韓国・中国・日本を中心に 梁 淑珉
第六章 理解と誤解の日本語プロンプト 芝原宏治
第七章 中国語の〈ウナギ文〉 林 嵐娟
第八章 英語の〈ウナギ文〉 芝原宏治・林 嵐娟
付 録 湯の滝の地球化学と微生物学 三田直樹
芝原宏治（しばはら こうじ）大阪市立大学名誉教授・元関西外国語大学教授／林 嵐娟（りん らんけん）大阪市立大学博士(文学)／梁 淑珉（やん すんみん）大阪市立大学・関西学院大学等非常勤講師
シリーズ知の対流 全三巻
編者 芝原宏治 スティーヴン・ドッド フィクションに封印された社会の断面を読みとく 定価 本体３、８００円＋税
Ⅰ 都市のフィクション
編者 芝原宏治 スティーヴン・ドッド 山崎弘行 高梨友宏 芸術作品に描かれる都市と都市民の希望を読む 定価 本体４、６００円＋税
Ⅱ 都市と故郷のフィクション
第一巻と第二巻は、採択された研究の一環として大阪市立大学学術情報総合センターで行った国際シンポジウムがもとになっている。二〇〇三年に行った第一回シンポジウムは、『都市のフィクション』（二〇〇六年七月発行）という形になった。また、二〇〇四年に行った第二回シンポジウムは、『都市と故郷のフィクション』（二〇〇七年八月発行）という形になった。両書編集者の一人であるスティーヴン・ドッド氏はロンドン大学ＳＯＡＳ（東洋アフリカ学院）の教員であるが、ハンブルク大学日本学科の協力も特記しなければならない。
大阪市立大学が構築しようとしているものであれ、他機関が構築しようとしているものであれ、「都市文化論」にフィクションは欠かせないが、前二巻では、フィクションの基盤でもある言語そのものを本格的に扱うことは意識して避けた。村落においても不可欠であるものは扱いにくかった。しかし、言語は、都市文化を際だたせる要素ではないとしても、それを構成する要素の中で最も重要なものである。言語がなければ、都市文化があり得ないだけでなく、都市文化論の展開もあり得ない。それゆえ、最終巻となる本書では句読法と言語表現を取り上げた。
第Ⅰ部で扱う句読法は、句点と読点、ピリオドとコンマなどの使い方である。日中韓英の句読法を比較すると、様々なことが見えてくる（一―四章）。軟式の句読法を使っている日本の出版物には学童生徒への視線があってよいことや、ＭＬＡの硬式句読法が論理一辺倒ではないことも見えてくる（一章、四章）。第Ⅱ部で扱う言語表現も同様である。中国語の時間表現と、韓国語・日本語の時間表現。シェイクスピアの文学表現と、日本語の数学表現。これらを比較すると、やはり多くのことが見えてくる。中韓日の開化期には類似した誤読防止の試みがあったことや、現代漢字文化圏の教科書には同種の配慮が必要だということも見えてくる（五章、六章）。日本語独特だと今なお一般に思われている「ぼくはウナギだ」のような表現と、「老秦是稀飯」（秦さんはおかゆです）や “I’m the soup.”（私はスープです）のような表現も、比較可能である。そして、これらを比較すると、思考にかかわる普遍的なことが見えてくる（七章、八章）。
共著者の林嵐娟（りんらんけん）は中国語を母語とする言語研究者。梁淑珉（やんすんみん）は韓国語を母語とする中国語学研究者である。今回は、英語を母語とする研究者に執筆を依頼するのは控えた。英語の句読法と表現については、書きたいことが既に固まっていたからである。
本書を知の対流シリーズの最終巻とすることができたのは、三田直樹氏（産業技術総合研究所地質情報研究部門・主任研究員）の「湯の滝の地球化学と微生物学」を転載することが可能になったお蔭である。氏と足寄町（あしょろちょう）教育委員会および足寄動物化石博物館に御礼申し上げる。
