■近世瀬戸内「浦」社会の研究 |
山本秀夫著 |
「備讃人」の「浦」社会への眼差しと地域史資料との対話
■本書の構成
序 章 本書の課題と視角
第一部 漁撈の歴史的考察
第一章 直島の鯛網漁
第二章 瀬戸内の鯛網漁
第三章 真鍋島の鯛網漁~民俗学的補遺~
第二部 浦と地域運営
第一章 讃岐高松藩の浦社会の基礎的考察
第二章 高松藩領の浦(一)~坂出浦~
第三章 高松藩領の浦(二)~小方浦~
第四章 高松藩領の浦(三)~引田浦~
第五章 丸亀藩領の浦~庄内浦~
第六章 幕府領直島~「鯛献上」と地域社会~
第七章 「御用水主」と地域社会
第三部 人・物の「移動」
第一章 櫓材流通
第二章 近世期の備前牛窓の造船業
第三章 讃岐高松城下「平福屋」について
第四章 旅としての「へんろ」
◎索 引
◎山本秀夫(やまもと・ひでお)……1959年岡山県生まれ 岡山大学大学院文学研究科修了 現在、香川県立高松工芸高等学校教諭
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ISBN978-4-7924-0947-0 C3021 (2011.9) A5判 上製本 434頁 本体11,500円 |
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「備讃人」の「浦」社会への眼差しと地域史資料との対話
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高知大学教授 荻慎一郎
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著者は岡山県で学生時代まで過ごされ、香川県で教員等として現在生活していることから、自らを「備讃人」の造語で表現される。「海を視点とした人・物の生き生きした動きを歴史的に明らかにし、近世の浦の地域社会を復元したい」とする意図で、瀬戸内海をはさんだ地域の「浦」社会を解明することを試みられたのである。
「浦」は海と関わる生業である漁業、海運業、商業に携わる人々から主に構成される。行政組織として「村」のなかに編成されている場合には農業に従事する人もいる。浦(浜)と郷村(岡)とに地域社会が分離運営されるなど複雑な様相もみられる。「浦」社会をどう捉えるのかが、本書を貫く主題である。対象とする地域の浦に関する史料は必ずしも多く残っていないという。史料だけでなく民俗学など関連分野の調査方法を使ってその解明に当たる研究姿勢は貪欲ともいえる。漁業史研究では聞き取り調査も重視されている。著者には原風景があるのだろう。新史料を提示して論点を整理する筆致には地域社会との対話のようにも思われる。また史料に基づく歴史像から、従来の研究史も自らのフィルタ-にかけて整理されている。地域史からの挑戦ともいえる。地域史研究の底力とたくましさを随所に感じ清々しい。
本書を貫くのは地域社会への温かい眼差しである。時代によって変容する地域に対して、その歴史的蓄積に想いを馳せながら、歴史のフィルタ-で現在を確認し、未来を模索する姿勢である。「近世期の人々(いやそれ以前の人々も)も、備讃の交流を意識したであろうし、二一世紀に生きる我々にも地域間交流は不可欠であろう。本書刊行の大きな意図の一つは、この造語を一般化したいという私の決意でもある」。ここには志が表明されている。著者は高校や資料館などに勤務しながら、研究を積み重ねられた。学会の発表会場で教え子の高校生達をみた時の嬉しさ、卒業生が「地域に根ざした学問」を学んでいることを「教師冥利に尽きる」、と「あとがき」で記されている。その志の高さにも感銘をうける。本書はその大きな所産であろう。
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「浦」を切り口に近世社会を照射
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岡山県立記録資料館長 定兼 学
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わたくしが、著者・山本秀夫さんと出会ったのは、一九八二年岡山地方史研究会です。山本さんが備前国牛窓(現・瀬戸内市)における朝鮮通信使に関する卒業研究を報告したときでした。このとき山本さんは、出身である備前国牛窓を中心に「浦」を切り口にして近世社会の研究を続けたいと述べていました。当時わたくしは漁村に興味がありましたので、山本さんが香川県に職を得たのちも、研究交流を続けてきました。
山本さんは、教諭、学芸員、あるいは文書館職員を勤めながら研究を続けています。三〇歳代後半には一念発起して大学院で学び、研究に深みが増しました。山本さんの研究スタイルは、対象地域に深く入り込み、地元の人から謙虚に学び、史料を博捜したうえでおこなうというもので、それぞれの研究は、日本の漁業史・漁村史・漁政史研究、海運史・海事史・流通史研究、民俗学・民具史研究、近世村落社会論研究などに一石を投じようとしている力作揃いです。
山本さんは八二年に抱いた初心を貫きました。岡山大学大学院教授倉地克直さんに三十年余にわたって指導を受け、ねばり強く努力されました。いまここで、不肖わたくしが、一文を草するのは、山本さんとわたくしはともに「地域社会をみつめると広い世界がみえる」ことを信じて地域史研究をこころざした同志だからです。わたくしは、山本さんのそれぞれ「コク」のある地域史研究を一纏めにすれば、これまでの日本近世史研究に新たな文脈を提示することになると確信しています。
本書は、近世瀬戸内「浦」社会研究の基本書となるものです。また、日本近世史研究の様々な場面で参照にすべき要素をいくつも内包している書物です。是非お手元に置かれるようお願いしまして、本書推薦の辞といたします。
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。
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