近世城下町の運営と町人
松ア範子著


城下町研究に新たな段階を画する成果。



本書の構成

  序 章 本書の課題と構成

第一部 城下町の運営システム

  第一章 城下町の行政区域と運営システム
  第二章 藩庁奉行所と町方部局
  第三章 城下町の運営と町役人
  第四章 広域的な運営システムの展開

第二部 政策形成と商人

  第五章 流通政策の転換と城下町商人
  第六章 産業の発達と城下町
  第七章 物価問題と市場管理

第三部 城下町の運営と財政システム

  第八章 財政システムと住民負担
  第九章 窮民救済にみる社会政策の実現
  第十章 住民負担の諸段階と台帳整備

  終 章 まとめと今後の課題


  ◎松ア範子(まつざき のりこ)……1957年、福岡県生まれ 熊本大学大学院社会文化科学研究科博士課程修了 現在、熊本大学永青文庫研究センター 博士(文学)




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ISBN978-4-7924-0973-9 C3021 (2012.11) A5判 上製本 399頁 本体9,200円

  城下町研究に新たな段階を画する成果

熊本大学文学部教授 吉村豊雄

 本書は、松ア範子氏が、熊本城下町を対象に、近世城下町研究を近世都市・都市社会史研究の次元で研究すべく、博士論文をもとに、ここ一〇年近くの研究成果をまとめられたものである。

 周知のように、近世都市・都市社会史研究は、江戸・大坂・京都の三都を中心に進められ、城下町研究は、方法論的にも成果のうえでも、遅れをとっている現状にある。

 松ア氏は、最近の近世都市研究や地域社会史研究の成果に学びつつ、三都を中心とした近世都市研究が、その巨大性ゆえに、都市の内部編成・社会構造の解明に力点が置かれ、巨大都市の都市運営・都市行政を俯瞰的に解明する面で不十分さを残しているとの認識のもとで、本書では、町役人の町運営と藩庁の都市行政との相互関係のダイナミズムを解明という視点が全体に通底している。

 そして町人・町役人が、城下町の都市行政、流通・市場政策の政策形成を実質的に担い、その財源も創出・具備していくという、城下町人・町組織の自立的な運営能力の実態を鮮やかに示されている。

 町役人の寄合場所である「町会所」が、「町奉行所」など藩施設を兼ねるなど、従来の研究史も想定していない行政実態といえる。近世城下町において、どのようにしてこうした行政段階にたち至るのか。本書は、大きな研究方向を提示している。

 いま一つ、本書の成果としてあげておきたいのは、城下町における中間的な行政区域の実態と役割を明らかにしていることである。近世地域社会史では郡と村の中間区域の存在が関心を集めているが、都市部ではほとんど問題になっていない。城下町人の間から中間的な行政区域(懸)が立ちあがり、住民の生活区域(丁)を基礎に、「惣町−懸−丁」という重層的な町運営組織が、城下町の都市行政の実質を担っていく過程の解明は、本書の白眉ともいえる。

 本書は、近世城下町研究に新たな段階を画するものであり、広く近世都市研究・地域社会史研究にも寄与するものである。広く斯界に推薦する次第である。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。