中世後期畿内近国の権力構造
田中慶治著


室町・戦国期の「大和国特殊史観」を、実証的な個別論文の積み重ねによって打ち破る。


■本書の構成

序 章 中世後期の権力論をめぐって  ―大和国を中心に―

第一部 中世後期寺院の権力構造

第一章 室町期大和国の守護権に関する一考察  ―幕府発給文書を中心に―
第二章 室町期における興福寺大乗院門跡の検断と国人
第三章 大和国中山寺支配をめぐる門跡と国人
第四章 室町期大和・河内国境地帯における諸勢力の動向をめぐって

第二部 中世後期国人層の権力構造

第一章 中世後期畿内国人層の動向と家臣団編成  ―大和国古市氏を中心に―
第二章 中世後期の若党に関する一考察  ―大和国を中心にして―
第三章 国人古市氏の馬借・関支配について  ―南山城を中心にして―
第四章 和泉国上守護代宇高氏と興福寺官符衆徒棟梁古市氏

第三部 中世後期惣国一揆の権力構造

第一章 室町期における興福寺大乗院門跡の検断と布留郷一揆
第二章 戦国期大和国宇智郡惣郡一揆の成立
第三章 戦国期大和国宇智郡惣郡一揆の内部構造と高野山

第四部 近世への展望

第一章 忍海の郷をめぐって  ―近世の郷と中世国人の郷―
第二章 国人の城郭と近世陣屋・陣屋町  ―新庄陣屋・陣屋町の成立と展開―
第三章 武家の武功と家の歴史復元  ―新庄藩家老足立氏の事例―
第四章 中世国人の近世への展開  ―三箇家親類書をめぐって―

終 章 総  括





  ◎田中慶治(たなか けいじ)……1962年、和歌山県生まれ 奈良教育大学大学院教育学研究科修士課程修了 現在、葛城市歴史博物館学芸員 博士(文学・新潟大学)


ISBN978-4-7924-0978-4 C3021 (2013.3) A5判 上製本 430頁 本体9,500円
確実で信頼できる大和国を中心とした畿内近国室町・戦国期の武家・寺院・地域権力研究
新潟大学人文学部教授 矢田俊文
 中世後期大和国の権力構造を考えるとき、大和の国人は強大な興福寺の前に戦国期の権力者にはなることができないと理解されていた。それとは反対に、興福寺は大和国人の勢力伸長の前にひたすら没落してゆくとも理解されてきた。
 しかし、本書『中世後期畿内近国の権力構造』の田中慶治氏は、そのような理解に対し、興福寺も大和国人も室町幕府―守護体制のもとで自らの権力を伸長させたことを明らかにした。氏の研究は室町・戦国期の大和国が他の国とは異なる歩みをしているというこれまでの捉え方を、実証的な個別論文の積み重ねによって打ち破った。
 本書『中世後期畿内近国の権力構造』は、大和国をおもな対象として、武家権力、寺院権力、地域権力の分析を行うことにより、中世後期畿内近国の権力構造の研究をまとめた論文集である。
 収録された論文には、幕府から発給された文書がどのような伝達ルートをたどり受給者に渡るのかを手がかりにして、室町期興福寺内の大和国守護権の掌握者を検討し、中世後期の興福寺が室町幕府―守護体制のなかに位置付けられる権力であることを明確にした論文や、大和国人古市氏は解体の危機にあった一族結合を興福寺や室町幕府などの権威を利用することで乗り切り、一族結合の強化に成功し、家臣団に対する裁判権を掌握して家臣団の統制・編成をおこなったことを明らかにし、古市氏の諸施策は十六世紀に登場する諸国の戦国期権力に共通するものであることを示した論文などがある。本書はこれらの確実で信頼できる論文で構成されている。
 本書は、室町・戦国期畿内近国において巨大な力をもつ寺院、惣国一揆、それに畠山氏、さらに古市氏ら大和の戦国期権力者に関心をもつ人々、研究者にとって必読の書物である。



※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。