城下町世界の生活史
没落と再生の視点から
藤本清二郎著


城下町和歌山を対象として、その下層、外延部に存在する「非人・乞食」身分に関する研究と、非定住的な社会諸層(無宿、胡乱者等)を対象とした生活史研究を通して、近世城下町の(没落・逸脱・再生)構造と特徴を解明する。



■本書の構成


はじめに
――城下町世界と生活史の方法

序章 城下町世界の記録 
―町廻りを通じて―
    はじめに/一 町廻りの始まり/二 町廻りの範囲/三 巡回目的/四 業務の命令者と承け手/五 町廻りの手当と日数/おわりに


  第一部 没落・逸脱・死

第一章 徘徊者・胡乱者
    
はじめに/一 徘徊の状態/二 出身地・遍歴過程/おわりに

第二章 逸脱と立帰り
    
はじめに/一 火付け/二 人殺し・傷害/三 盗み/四 巾着切/五 博奕/六 追放立帰り/七 欠落と立帰り/八 逸脱の全体像/おわりに

第三章 行倒死と「片付」
    
はじめに/一 和歌山城下の行倒死/二 城下行倒死人の「片付」/三 行倒死人の処理システムと三墓/おわりに

第四章 「溜入り」の人々
    
はじめに/一 溜の沿革と運用/二 「溜」とその収容者/三 収容者・留置者のその後/おわりに

  第二部 再生――救済と勧進

第五章 城下町の勧進者
    
はじめに/一 和歌山城下の勧進/二 城下町非人身分の勧進/三 城下かわた村の勧進/おわりに
     補論 城下町、振り売りの活況


第六章 行倒人・孤独人の介抱と扶養
    
はじめに/一 御救小屋への非人収容/二 介抱・扶養・療治/三 らい者・病人の治療と扶養/四 子ども・鰥寡孤独者の扶養/五 乱心者の隔離/おわりに

第七章 城下の慎みと施行
    
はじめに/一 一七世紀の乞食・非人施行/二 一八世紀の法事と城下の「慎み」/三 法事施行と稼ぎ停止/四 弱人改めとお救い――元禄・正徳期の弱人対策/おわりに

  第三部 乞食・非人・非人改め

第八章 非人村の形成と座・仲間
    
はじめに/一 非人村の形成と長吏役の設置/二 非人村の展開と構造/おわりに
     付論 旅船木上げ仲間と非人仲間


第九章 長吏・非人改役と肝煎
    
はじめに/一 一八世紀の長吏一老/二 一八世紀の長吏二老・三老/三 一九世紀の長吏/四 非人改役人と肝煎/おわりに

第一〇章 長吏と村方非人番
    
はじめに/一 海士郡の非人番支配/二 名草郡の非人番支配/三 城下周辺警察体制の確立/おわりに

第一一章 非人改めから「非人狩」へ 
―正徳飢饉・享保大飢饉―
    
はじめに/一 元禄・宝永期の非人滞留/二 正徳五年の飢饉と非人改め/三 享保一七年大飢饉と「非人狩り」/四 定時の非人改め/おわりに

終章 一九世紀の城下町世界 
―変容と没落・再生―
    
はじめに/一 城下町世界の変容/二 一九世紀の非人改めと非人/三 新政府下の非人乞食対策/おわりに


  ◎藤本清二郎(ふじもと せいじろう)……1949年兵庫県生まれ 広島大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学 現在 和歌山大学(教育学部)教授



 著者の関連書籍
 藤本清二郎著 近世賤民制と地域社会

 藤本清二郎編 和泉国かわた村支配文書

 紀州藩牢番頭家文書編纂会編 城下町警察日記

 紀州藩牢番頭家文書編纂会編 城下町牢番頭仲間の生活



 
◎おしらせ◎
 
『ヒストリア』第251号(2015年8月号)に書評が掲載されました。 評者 渡邊久仁太氏



ISBN978-4-7924-1009-4 C3021 (2014.3) A5判 上製本 494頁 本体12,000円
刊行にあたって
藤本清二郎
 本書には、城下町和歌山を対象として、その下層、外延部に存在する「非人・乞食」身分に関する研究論文と、非定住的な社会諸層(無宿、胡乱者等)を対象とした生活史研究の論文を掲載している。これらの論文を通して、本書では近世城下町の(没落・逸脱・再生)構造と特徴を理解しようと試みている。
 近年の近世都市史研究の潮流は、三都を対象として方法が導き出され、展開している。都市の非人・乞食身分の問題についても、三都に関する研究が多く、地方城下町のそれに関する研究は立ち遅れているといわねばならない。このように研究が進展しにくい理由は何といっても関係史料の少なさである。本書は牢番頭家文書と呼ばれる稀有な史料群と格闘した成果である。同史料群の史料をフルに活用して、歴史像の構成を試みるものであり、町廻りを担当した牢番頭の目、牢番頭の手を媒介にして近世都市・城下町の歴史像を提示するものである。より具体的には次の視点から近世の地方城下町を捉えたいと考えている。
 @三都でなく、巨大でない(かつ在町でない)地方城下町の固有の構造。
 A武家・町人・寺社という分節、身分構成からもれた(変形した)非人、乞食、無宿、胡乱者などを対象とする。
 B町人・百姓・武家の没落した姿を分析対象とする。没落の状態を、変動してきたもの、今後変動するものとして受け止める。
 Cこれらは都市社会・農村社会の動向といかに関わっているか。
 D明治近代に至る乞食・非人身分の解消過程、筋道はどのようであったか。
 第一部「没落・逸脱・死」、第二部「再生――救済と勧進」、第三部「乞食・非人・非人改め」という三部構成をとり、第一部・第二部で城下町における「没落と再生」という状態、状況を、第三部で領主政策としての非人改めと乞食村(非人村)集団を取り扱っている。「再生」は生業(物売り・物貰い)と御救い対象の施行、扶養という両面を含意している。政策と集団とは関連しているが、固有の問題でもある。終章では一九世紀における城下町の動向を分析した上で、乞食・非人層・無宿層の拡大状況と、とりわけ天保飢饉時における領主側の政策、幕末期の新対応、明治初期における新政府の政策動向、および勧進活動(権)の廃止にいたる動向を分析し、近世城下町の構造が解体することを展望した。
 ところで、筆者は本書出版の二〇一四年三月末をもって和歌山大学を退職する。三五年間の長きにわたり勤務したこととなる。研究に専念できた時間はそうはなかったが、研究は研究活動以外の人生経験で深まり、味がでるような気もする。本書は、地方都市和歌山からの情報発信である。『天保時代、紀州物売・物貰風俗巻(二巻)』風俗絵四一三カット(全点)を収め、提示した。一読、高評たまわれば幸いである。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。