■紀州藩士酒井伴四郎関係文書

清文堂史料叢書第124刊

小野田一幸・��久智広編

下級藩士の日記が語る幕末政治世界 ■本書の構成 １大魯西亜国舩大坂表江渡来ニ付御人数被遣候姓名 ２江戸行ニ付入用帳 ３江戸表江発足ヨリ帰着迄諸雑用扣 ４道中人足帳　　５江戸詰中諸事扣 ６江戸詰中小遣帳（二番）　　 ７江戸詰中小遣帳（五番） ８江戸詰中并道中日記　　９道中旅籠帳 10道中人足帳　　11京都大坂詰中諸扣 12大坂詰中諸事留控 13大坂詰中諸控（弐番） 14江戸詰中日記帳 15小遣帳　　16御参府御供ニ付諸扣 17道中人足帳　　18道中人足帳 19人足帳　　20御出陣御供ニ而芸州江詰中諸事留扣 21広嶋表詰中雑用扣 22奥詰被仰付候節諸雑費扣 23諸御達扣　　24諸勤心覚 25京都詰ニ付扣帳　　26秋田藩建言 27衣文方諸勤諸控　　28江戸江発足日記帳 29酒井家親類書　　　30酒井家親類書 31酒井家系譜 下級藩士の歩んだ幕末……小野田一幸 　　はじめに／紀州藩士酒井家の歴代の足跡と伴四郎／大番と衣紋方―伴四郎の職務として―／酒井伴四郎の足跡を辿る／おわりに 　　◎小野田一幸（おのだ　かずゆき）……1965年和歌山県生まれ　関西大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学　現在、神戸市立博物館学芸課事業係長・学芸員 　　◎��久智広（たかく　ともひろ）……1972年秋田県生まれ　総合研究大学院大学文化科学研究科単位取得退学　現在、神戸市教育委員会文化財課学芸員

ISBN978-4-7924-1022-3　C3021　(2014.7)　Ａ５判　上製本　356頁　本体8,800円

下級藩士の日記が語る幕末政治世界

和歌山大学名誉教授　藤本清二郎

『紀州藩士酒井伴四郎関係文書』と名前が付された本書は、題名通り紀州徳川家の酒井伴四郎が記録した日記類を丹念に翻刻した史料集である。これはまた、下級家臣の目から見た幕末から明治初年にかけての日本社会動乱期の貴重な記録でもある。酒井伴四郎は大番に属し、衣紋方の職務を務めたが、本書には全二八点の同人日記・記録類（神戸市立博物館所蔵二七点・東京都江戸東京博物館蔵一点）と三点の親類書・系譜（和歌山県立文書館所蔵）が収められている。前者には、政治史に大きく関わる史料ではプチャーチン大坂湾来航時の警備参加記録、第二次長州戦争への動員に関わる記録など。衣紋方として二度江戸に詰め、重臣の衣紋稽古に携わった日記（三井家にも出勤）。これらがとくに興味深い。江戸詰時の日記・小遣帳はすでに一部が江戸東京博物館編『酒井伴四郎日記―影印と翻刻―』として紹介されているが、その前後が新たに紹介され、全体を理解するのに大いに役立つ。 　同書には、編者小野田一幸氏による丁寧な解説が付され、読者の利用の便が図られている。同氏の解説によって、私的な契機により作成されたが、公的な性格を持ち、ローカル・部分に留まらない、幕末日本全体の政治史・社会史解明に不可欠な史料であることが立証されている。また江戸の賑わいは市中の住民だけでなく、江戸詰めの武士層によっても培われたという指摘がある。江戸詰期の史料はこのような視点で読み返してみたい。 　従来、幕末維新期の解明に政治の表舞台で活躍した人物の記録が歴史研究の上で重要な役割を果たしてきた。それと同時に、名も残らない下級家臣が「裏方として幕末を生き抜いた」記録にも光を当てる時代がきているようである。 　本書は、政治史はもとより、情報史（政治情報の伝達・流布の身分構造）、街道旅行・名所参詣の歴史（観光史）、和装服飾史・衣紋方職制史、下級武家生活史、消費行動・食生活史、三都文化享受の歴史などの幅広い分野の研究に資するところ大である。新しい研究分野で大いに利用されることが期待される。 　今日残された紀州藩の史料は極めて少なく、本書掲載史料は大変貴重である。さらに紀州藩の人事記録である親類書・系譜は近年注目されだした。本書ではその一部が翻刻され、同文書群のようすが垣間見られる。今後の活用に道を開く点でも意義深い。

※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。