地域のなかの建築と人々
妻木宣嗣著


建築空間をつくる人々、建築環境をつくる人々、商いをする人、といった、より具体的な人々を対象として建築の考察を試みるとともに、建築に関わる人々の心象風景についても考察。建築とそれを作った人々に焦点をあてることから、点と点を結んだ歴史観ではなく、面の歴史観について言及する。




■本書の構成

第一章 近世~近代神社建築研究の諸相
  
研究の目的と背景/京丹後市の地理・歴史/京丹後市各地域における神社本殿の様式・年代分布/京丹後市における近代神社本殿建築

第二章 近世~近代の神社本殿に関する研究 
―京丹後市の近代期創立神社建立の行政と神社―
  研究の目的と背景/大宮町大野神社の建物/建築許可行政に必要な書類について


第三章 神社の小規模上屋の研究
  研究の目的と背景/神社本殿の上屋について/上屋の分類と特色

第四章 普請に関わった人々
  丹波柏原の彫刻師中井氏について/棟札から/文化財と寺社修理

第五章 『紀州田辺町大帳』にみる建築制限と作事願
  『紀州田辺町大帳』の建築制限と願い出/看板の規制

第六章 庇下空間(軒下)の規制からみた近世商業空間
  江戸における庇下空間の規制について/大坂における庇、庇下規制 /庇下の規制――出格子に関する規制

第七章 島根県大社町鷺浦の街並みと船宿経営
  鷺浦の地理・歴史/鷺浦の景観/鷺浦の建築/船宿の建築と経営




  ◎妻木宣嗣
(つまき のりつぐ)……1969年大阪市生まれ 大阪工業大学大学院工学研究科建築学専攻博士後期課程修了 現在、大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部准教授 博士(工学)



 著者の関連書籍
 妻木宣嗣著 近世の建築・法令・社会

 妻木宣嗣著 ことば・ロジック・デザイン

 妻木宣嗣・曽我友良・橋本孝成 著 近世の法令と社会 ―萩藩の建築規制と武家屋敷―

 妻木宣嗣著 生態学的建築史試論

 妻木宣嗣著 デザインの諸相―ポンティ・茶室・建築―

 妻木宣嗣著 都市の中のこびりついたデザイン




ISBN978-4-7924-1094-0 C3021 (2019.1) A5判 上製本 206頁 本体5,500円
 本書は日本建築史に登場する建築を、人との関係から論述したものである。これまでも多くの論文が日本建築史と人をテーマとし論述されてきた。筆者も例外ではなく、建築と建築規制を中心にそれを取り巻く社会について、考察を試みてきた(妻木宣嗣著『近世の建築・法令・社会』二〇一三年、清文堂出版、妻木宣嗣・曽我友良・橋本孝成著『近世の法令と社会―萩藩の建築規制と武家屋敷―』二〇一七年、清文堂出版など)。

 本書に収録した論考は、在郷についての考察である。これまでの日本建築史学は、それまでにない様式にひかりをあて説明していくという「点と点」の歴史観が中心であった。しかしカルロ・ギンズブルグがいうように(カルロ・ギンズブルグ著・上村忠男訳『歴史・レトリック・立証』二〇〇一年、みすず書房)歴史は出来事をつなぎ合わせると出来上がるといった、そんな単純なものではない。それ以外の方が断然多数を占める。この方法論を援用したのが、前半の京都府京丹後市での議論である。確かに近代特有の神社はいくつかある。しかし近代にはいっても、近世の様式で建立された神社が全体の約八〇%を占めることをどう考えるか。

 本書ではさらに建築空間をつくる人々、建築環境をつくる人々、商いをする人、といった、より具体的な人々を対象として建築の考察を試みるとともに、建築に関わる人々の心象風景についても考察している。建築とそれを作った人々に焦点をあてることによって、点と点を結んだ歴史観ではなく、面の歴史観について言及している。

 最後に、島根県鷺浦の建築と町並み、そして船宿経営をトータルに考える。もはや建築史だけをやっていてよい時代ではない、と筆者は考える。トータルな議論が必要となろう(特に近世は)。
 (妻木宣嗣)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。