中興禅林風月集抄総索引
来田 隆著




本書の構成
  凡例
  自立語索引篇
  付属語索引篇

本書の特徴
 ○本索引は京都府立総合資料館蔵『中興禅林風月集抄』(惟高妙安抄、室町末期写一冊)に用いられているすべての単語を対象とした総索引である。
 ○本索引は全語彙の用例文付き総索引である。
 ○底本は大塚光信編『新抄物資料集成』第一巻(平成十二年、清文堂出版)複製本文である。
 ○原典の『中興禅林風月集抄』は蓬左文庫本が同書に複製されている。原典の語句や訓読にあたってはこれを参照した。
 ○本索引は抄文のみならず原典の引用語句も採録した。
 ○本索引は自立語索引篇と付属語索引篇とから成る。自立語索引篇には一般語彙を、付属語索引編には助詞・助動詞を収めた。


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ISBN978-4-7924-1410-8 C3081 (2008.9) A5 判 上製本 852頁 本体16,000円
ケ サ サ
 来田 隆氏『中興禅林風月集抄総索引』の刊行を喜ぶ 
京都教育大学名誉教授 大塚光信  
 一六一四(慶長一九)年のキリシタン追放の実施を機に、関ヶ原の戦いに敗れた小西行長などの残党の背後にキリシタンの影を見ていた徳川方は早速に豊臣方への攻勢を仕掛けたが、金城湯池を誇る大阪城は容易に落城とはならなかった。そこで一旦和議を結ぶこととなる。これが所謂「大阪冬の陣」である。天下の耳目を集めたこの事件は、時を移さず物語化され、印刷に付され、書物として世間に流布するところとなった。『大坂物語』がそれである。このように手軽に書物の形で素早く提供されるようになったのは、木活字による印刷技術の確立があったからと思われる。これとヨーロッパ式金属活字による印刷事業の終焉とが直接関係するのかどうかは興味深い問題であるが、それはさておき、片仮名の木活字によって印刷された書物の一群に抄物が存する。抄の対象となる原典は、すべて日本書紀・史記など定評のある古典であったが、稀には『大坂物語』のような当代性の濃いものもないではなかった。その一つに「大坂冬の陣」を起こすきっかけとなったとされる「国家安康」を含む、文英清韓撰の、方広寺大仏殿の鐘銘を対象とする『大仏鐘銘(抄)』がある。同抄に、鐘の効用を説いて、
 ○鐘アル所ヘハ魑魅モケササヲナサス、天魔外道モ眼ヲサシ出サヌソ(12ウ)
と抄する箇所があるが、そこに見えるケササについて、日葡辞書は、
 ○Qesasa. Estoruo. ¶ Qesasa uo nasu Fazer impedimento. ou estoruo.(妨害。○ケササヲナス、妨害する)
と説明する。『日本国語大辞典』(初版)は、日葡辞書のほか近世の文献から用例をあげるが、管見によれば、古今著聞集(興言利口、第二五)がもっとも古く、他に室町時代物語(伊吹童子)本福寺跡書などのほか、抄物では、大仏鐘銘(抄)・孟子聴麈の例が報告されているが、他に、
 ○何妨トハ、気ニアワヌト云ハサマタケタ心ソ、今ハサモナイホトニ人ノ気ニアワヌ事ヲ云テケサ丶ヲナス事ナイホトニト云心ソ(中興禅林風月集抄、19オ)
と、中興禅林風月集抄にも見える。この抄の抄者は、かの有名な玉塵・詩学大成抄などと同じく惟高妙安である。しかし、ケササは、あの大部の二抄には見えない。玉塵と詩学大成抄との抄文には共通するものがみえるが、中興禅林風月集抄の抄文はそれとは多少色合いが異なるような気がする。このような中興禅林風月集抄を取り上げたのが来田隆氏『中興禅林風月集抄総索引』である。来田氏には、すでに抄物を対象とした総索引の編著がある。その経験を生かし、苦心経営の末、出来上がったのが本書である。ただ、万全を期したためあまりにも大部となり、経費の点で刊行のメドがたっていなかった。このケササを取り除いたのが新村出記念財団の刊行助成金の交付であった。こうして来田氏の労作が陽の目をみることとなった。斯学にたずさわる一人として、来田氏の苦労と刊行を可能にしてくださった新村出記念財団とその関係者に感謝しつつ、本書の刊行を喜びたい。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。