近代の古蹟空間と日朝関係
―倭城・顕彰・地域社会―
太田秀春著


近代における日朝の古蹟を中心に、近代の日朝関係史を考察。城郭に対する認識をはじめ、植民地期の古蹟調査事業、それに伴う総督府や軍部、民間による古蹟の保護等、古蹟と植民地支配、地域社会との関わりを論じる。


本書の構成

序 章
第一章 日朝両国の城郭認識と日本の植民地政策
 はじめに
 第一節 近代日朝両国における城郭認識
   一 日本の城郭認識
   二 朝鮮の城郭認識
 第二節 日本によるソウル城郭の撤去と王宮の開放
   一 城郭の撤去
   二 王宮の開放
 第三節 城郭の保存とその意義
   一 保存の論議
   二 保存の意義
 おわりに

第二章 朝鮮総督府の古蹟政策と城郭
 はじめに
 第一節 朝鮮総督府の古蹟調査事業と倭城
 第二節 倭城の「古蹟」指定と整備
 第三節 古蹟の顕彰と地域社会
 おわりに

第三章 軍部による朝鮮の役の城郭研究
 はじめに
 第一節 軍部による城郭研究
 第二節 軍部による城郭研究の目的とその性格
 おわりに

第四章 植民地朝鮮における倭城顕彰
 はじめに
 第一節 朝鮮の役における梁山倭城と馬山倭城
 第二節 梁山倭城における伊達政宗築城説の成立
 第三節 馬山倭城における伊達政宗築城説の成立
 第四節 朝鮮総督府の倭城顕彰
 おわりに

第五章 『朝鮮城址実測図』と倭城
 はじめに
 第一節 『朝鮮城址実測図』について
   一 『朝鮮城址実測図』の体裁
   二 『朝鮮城址実測図』の作成年代・作成主体・作成目的
 第二節 『朝鮮城址実測図』にみる倭城
   一  蔚山倭城
   二  西生浦倭城
   三  臨浪浦倭城
   四  梁山倭城
   五  長門浦倭城
   六  松真浦倭城
   七  永登浦倭城
   八  熊川倭城
   九  馬山倭城
   十  新〓倭城
   一一 馬沙倭城
   一二 望晋倭城
   一三 明洞倭城
   一四 順天倭城
   一五 順天倭城外郭
   一六 豊徳川陣
   一七 白連峰陣
 おわりに

終 章
   あとがき
   索  引
   図版目録


  

 著者の関連書籍
 太田秀春著 朝鮮と役と日朝城郭史の研究

 平川 新編 江戸時代の政治と地域社会 全2巻


ISBN978-4-7924-0653-0 C3021 (2008.6) A5 判 上製本 266頁 本体5800円
本書のめざすもの 
 当時国立中央博物館として使用されていた旧朝鮮総督府庁舎が、一九九五年に金泳三政権の華々しい演出で解体されたことは記憶に新しい。
 一九二六年に竣工した旧朝鮮総督府庁舎は、一九四五年八月に朝鮮半島が日本の植民地支配から解放されると米軍庁舎として使用され、一九四八年の韓国独立後は韓国政府中央庁として使用された。その後、一九八六年には内部の大改修が行われ、国立中央博物館として開館した。したがって、旧総督府庁舎は日本が使用した一九年間より、韓国が使用した四七年間のほうがはるかに長く、韓国史の中でも重要な位置づけをもつ建物であり、また造形的にも優れた建築であった。この流れの中で、植民地期に朝鮮総督府が指定した文化財に対する再評価もおこなわれ、注目されたのが倭城の存在である。
 倭城とは、朝鮮の役の際に、朝鮮半島に渡海した日本軍が築いた日本式の城郭である。今日でも、韓国の南海岸を中心に多数残されている。この倭城が築かれた同時期の国内の城郭、いわゆる織豊期の城郭の多くは、近世を通して大名の居城などに使用されたため、多くの改修が加えられており、築城当時の姿を考察するのは非常に困難である。これに対し、倭城の場合は、朝鮮の役後にほとんど放置されたため、同時期の城郭を考える上で貴重な資料となっている。このため近年では、城郭史を中心に、文献史学、建築史学、考古学などの各分野で盛んに研究がなされている。
 この倭城は、近代に入って朝鮮半島が日本の植民地になると、朝鮮総督府によって十一ヶ所が古蹟に指定され、韓国が独立した後も九ヶ所の倭城が史蹟に指定され、国指定文化財として保護されていた。ところが、前述のような金泳三政権の「歴史の建て直し」のなかで「日帝残滓」とされ、これらの倭城は国の史蹟指定を解除されてしまったのである。国指定文化財から地方指定文化財に格下げされたかたちになり、歴史に翻弄された倭城は、まさに近代の日朝関係史を表象する存在といえよう。
 本書は、この倭城という象徴的な文化財を中心に、近代の日朝関係史をみていこうとする。城郭は文化財の中でも代表的なものであり、さらに近代における城郭の扱いは、近代国家の建設過程、いわゆる「国民国家」の形成と密接な関連を有していた。
 日本と朝鮮半島の関係史について、近代における古蹟、なかでも城郭に対する日朝それぞれの認識、植民地期に朝鮮で展開された古蹟調査事業、それにともなう総督府や軍部、民間による古蹟の保護、顕彰、さらに古蹟と植民地支配、地域社会との関わりについて論じる。
 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。